幻想海斗幸福の情景

この小説は純粋な創作です。実在の人物団体に関係はありません。

時間は出陣13の夜、狼の眠りの次に入ります。

部屋に戻ると

拓也は

ソファに座り込み、

さっそく携帯を取り出した。

俺に

あっち

あっちと手を振る。

キッチンとの仕切りのローボードに

コーヒーメーカー一式がある。

インスタントもあるが、

拓也の要望はこれではあるまい。

俺はサイフォンに手を伸ばした。

サイフォンの中泡が立ち上る。

沸騰まであっという間だな。

伊東さん

お疲れのところ申し訳ありませんでした。

拓也は電話に話し掛け始めた。

久しぶりに拓也がいる。

瑞月は

高遠の腕の中だ。

寄り添って目を閉じて

この世を受け入れている。

サイフォンを湯が上がっていく。

高遠の顔が揺らいで消えていく。

ありがとうございます。

ええ

ええ

待ってます。

拓也は

通話を終えた。

俺はカップにコーヒーを注ぎ

拓也はふううっとソファに凭れる。

片付いたか?

カップを置くと、

はい!

伊東さん、

もうすぐ戻ります。

拓也は

さっそく取り上げ香りを楽しむ。

腰を下ろした。

ガラスの散乱する中で

作田刑事は

昔に変わらず世話焼きだった。

無駄遣いするな

そして、

わかってる

言ってみただけだよ。

まぁ正当防衛だな。

問題ないさ。

認めてくれる。

俺自身、

自分を疑っているというのにな。

コーヒーの湯気に

おやおやというように笑いかける作田が

浮かぶ。

また絡まれてるのかい?

ほっとした。

あの声に

救われる思いだった。

作田刑事、

いい方なんですね。

拓也が

するりと入り込む。

お前はいつも俺が分かっている。

ああ

俺は応える。

何だか可愛い顔してましたよ。

海斗さん

作田刑事が中学生に戻してくれたのかな。

拓也が

にこりと笑う。

中学生の俺は

可愛くはなかった。

俺は子どもだった時がない。

大人ではなかったが、

子どもでもなかった。

だが何だろう。

ほっとした。

大人が

作田刑事が

俺を信じてくれてほっとした。

うふふ

拓也がくすくす笑う。

想像つくなー

寄らば斬るぞ!

みたいな中学生。

会ったときの海斗さん

無敵のスーパーマンでしたからね。

俺は応えず

コーヒーを口に運ぶ。

拓也が話を進めるだろう。

俺はそれが聞きたかった。

海斗さん

俺記録を読みました。

目を上げると

拓也が

ひどく真面目な顔をしている。

部屋に音を立てるものがないと、

お互いの呼吸ばかりが

妙に耳につくものだな。

カップを置いて

俺は拓也に向き合った。

そうか。

お前は補佐だ。

咲さんも伊東も知っていることだ。

秦は俺の過去を突いてくる可能性が高い。

頭に入れておいてくれ。

俺は静かに応えた。

拓也がふっと笑う。

ありがとうございます。

出過ぎたことかと思ったんです。

でも

海斗さんが気になりました。

見ていいと開いてもらったことに甘えて

読ませてもらったんです。

そして、

ちらと時計を見る。

ああ12時になるな。

もう休まなくては。

俺たちは

顔を見合わせた。

拓也は

ちょっと首を傾げ

また俺の目をしっかりと見た。

海斗さん、

俺たち家族になりました。

俺は弟で

海斗さんは兄さんです。

俺は

それが何より嬉しい。

頼ってください。

作田刑事を頼ったように

家族を頼ってください。

その目を受け止め、

俺は

腰を上げた。

片付けなければ寝られない。

俺は拓也とは違う。

ゴミの山の中で暮らす趣味はない。

もう頼ってる。

お前は

嫌になるほど出来がいいからな。

そう応えながら、

まずはカップを取り上げた。

あっ

拓也は目を泳がせて

テーブルの下に散乱した書類を揃え始める。

たった四時間で

ここまで散らかせるのは

大した才能だぞ。

そう声をかけて

流しに向かう。

ふっ

笑いが込み上げる。

俺の家族は手がかかる。

くそじじいは言うまでもない。

どんな躾をされたんだ。

可愛いふりして古狸なんだから始末に負えない。

瑞月は不器用にあれこれひっくり返す。

いや

そこが可愛いんだが、

手はかかる。

拓也は散らかす。

咲さんは拓也の部屋はダメだと笑っていた。

俺はどうなんだろう。

海斗さんは

可愛くなりましたよ。

俺は

兄さんが可愛いんで

毎日が楽しいです。

パタパタ片付けながら

拓也が生意気な口をきく。

家族って

甘える勉強する大切な仲間ですからね。

弱点も笑って許してくださいよ。

ということは、

まだあるな。

俺はざっと部屋を見回した。

程度問題だ。

咲さんに呆れられてるぞ。

寝室はだいじょうぶなんだろうな。

拓也が駆け出していく。

俺はゴミ袋を探し出してから

後を追った。

入ると

拓也がせっせと脱ぎ散らかしたものを拾い集めていた。

衣類は畳む。

収納ケースはないから

クローゼットの棚に乗せていく。

意外にゴミはない。

ただ着替えて寝るだけの生活が

かいま見えた。

ほとんど寝に帰るだけだったんだな。

天井を見上げながら

俺は隣に声をかけた。

拓也と一つ布団で寝るのは

カナダ以来だ。

ええ

飛び回ってました。

楽しかったです。

本当に楽しかった。

拓也の声は

しみじみとしていた。

成功させる。

俺は返す。

ええ

成功させます。

拓也の声は力強い。

寝息は

ほどなく聞こえ始めた。

拓也

俺は俺が成功を阻むものとならないか

それが気掛かりだ。

俺は瑞月を守れるだろうか。

閉じた目の裏に

ゆらゆらと情景が浮かび

微かなさやぎとともに動き出した。

抱いてさしあげてくださいな

それは

もう

可愛らしい赤ちゃんですよ

さやさやと

幾つかの声が響く。

ああ母の部屋だ。

こんなに明るかっただろうか。

いつも黄昏時のような儚い時間が流れていたように思うが。

覗き込む男の顔

髪は

少し波打っている。

眉は濃い。

彫りは深くて鼻筋が高く通っている。

俺を見下ろす笑顔は

ずいぶんと幸せそうだ

ふわっと宙に浮く。

男の顔はすぐ目の前だ。

海斗

お前は海斗だ。

海のように広く深く人を愛すんだ。

空に輝く星が

迷わぬように道を示してくれる。

愛する人を守れる男におなり。

見知らぬ男は

誇らしげに宣言する。

海斗

海斗

踊るように室内を歩く。

繰り返し

繰り返し

俺の名が呼ばれる。

海斗さま

海斗さま

さやぎは

いつか

すっかり俺の名前になった。

そうか。

そうだったのか。

名前をありがとうございます。

俺は

愛する人を授かりました。

名のように生きられているでしょうか。

生きたいです。

そう生きたいと願う名が

ありがたいです。

さやぎは

ゆらゆらと遠のいていく。

いつしか俺は眠っていた。

出陣の日

俺の眠りは安らかだった。

画像はお借りしました。

ありがとうございます。

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